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女将 女将奮闘記
サイト開設までの経緯編 vol.9
牛首紬との出会い
ネットできものの仕事をしようと決めましたが、では具体的に 何をするかということです。 そのためには、牛首紬、澤屋重兵衛さん、酒井美登里先生との出会いについてお話する必要があります。
6月のある日、まだ気楽な失業者だった私は、好きなきものの催事を楽しもうと、1日に2ケ所のきものの催事に行きました。 1ケ所1時間弱の予定で 、都内で開かれた高級きもの催事に行きました。

どちらも見ごたえのあるものでした。 人間国宝や特選織染作家、そして名工といわれる方々の 作品が所狭しと並んでいました。 しかし、所詮好みのものにしか引き付けられません。 引き付けられるものは多くないです。 ところがそれが有ったのです。牛首紬です。

さっと見て帰ろうとしていたのに、ぐいぐい引き付けられて、 何回も牛首紬の展示の前に行ってしまいました。 主張しない茶色や緑系の色無地と素朴な縞模様の小紋が何反もそこに並べられていました。 穏やかで暖かみがある自然な色、しっかり張りがあるけど堅くはない、凛とした風合い。

それはきものというよりも、布地として私を引き付けました。 何だか不思議な気持ちでした。きものの概念とかなりちがってとても素朴。 だけど高品質だというのがよく分かる質感でした 後で分かったのですが、そこにあったのは先染めの小紋ばかりで、創作的な後染めは有りませんでした。

そのことも妙に私の心を引きました。こんなに素朴なのに品がある、そんなきものばかりを作っている産地があるのかと気になりました。 「うしくび」という名も初めてで、店員さんに聞くと、ぼそぼそと、ダムの下に沈んでしまった紬であることとか、普段はこんな催事に出展してないとか教えてくれました。


私はもっと長く牛首紬の傍に居たかったのですが、買うという予定もなかったので、後ろ髪を惹かれる思いでその場を立ち去りました。 短時間だけど、牛首紬と出会った感動は大きなものでした。 はっきり掴めない何かが心の奥深くに刻み付けられました。
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