想い 「私にとってのきもの」

闇に舞う銀ぎつね                  アイさん 23歳

私は着物を一度も着たことがないのですが 羽織を6枚、道行きを7枚、 総絞りの着物を2枚、 大島紬や小紋などの着物を全部で20枚、 帯を8本、 持っています。

これらは全て祖母と母のもので、 去年の秋に母がなくなり 私は、着物に対する知識は全くのゼロだったのですが わからないながらも、 きっとこれは祖母や母が大事にしていたものだろう、と思い どうにかしなくては(着物についての勉強など)と思いながらも 法事や相続など、大変なことを全て1人でしなければならず、 また、自分自身も、母の看病生活と死によるショックで 鬱状態になってしまい、心療内科へ通う日々でした。

そんな私が今年の秋になって 少し病状もよくなり、街をぶらついていた時のこと、 ある着物屋さんを見かけて、ふらふらと入りました。

着物の整理をしていて、たとう紙に書いてあった店だったからです。
ここに行けば、顧客名簿か何か残っていて 家にある着物がいったい、どのような物なのか わかるかもしれないと思ったのです。

その頃の私は、着物について何も知らず、 小紋だとか紬だとかいった言葉も ほとんど耳慣れなかったのです。
母も祖母も着物をたくさん作ってはいましたが ほとんど着ることはなかったので、たまに虫干ししたりするのを 見ることがあるくらいでした。

私は、そういう時には、子供心に胸をときめかせたものでした。
美しい総しぼりの振りそで、薄紫の絹地に丁寧な相良刺繍を施した訪問着、 そして、黒いショール。

このショールは今でも時々手にとっては眺めるのですが 漆黒のビロードのショールで、美しい銀ぎつねが2匹、 すばらしく丁寧に刺繍されているのです。

小さい頃には、そのショールをあまり気にとめていなかったのですが 最近になってそのショールを取り出して 思わず息がつまりました。 深みのある黒。 黒というのは、染めるのが大変で、 黒を濃く染め出すのは何度も何度も染めないと 褪せたような黒にしかならない、という話を聞いたことがあったのですが その黒は、私が今までに見てきた黒い生地の中で だんとつに黒さが際立っていたのです。

純粋に驚きでした。 これが黒という色なのか、と感動しました。
私が見てきた黒の色など、そのショールの前に置くと 明らかに褪せて見えるのです。
新品の黒のセーターなのに。 そして、その漆黒のビロードにほどこされた銀ぎつねの刺繍。 まるで一幅の掛け軸の絵を見ているような、 それほど芸術性の高い品物でした。

私はこのショールを、とても気に入りました。
そうして着物を勉強して、着物を着てこのショールを羽織ろう、と 強く思いました。
私は、ですから、1枚のすばらしいショールを見て それを羽織りたいがために、着物を着たいと思ったのです。

幸いに、家にはたくさんの着物があるようです。
でも、どれが何なのか、全くわからない。 それで、話が戻って、突然ある着物屋にとびこんだのでした。
そこには残念ながら顧客名簿は残っていませんでした。
ですが、着物の話をすると 一度伺いますので見せてください、と興味を示されたので 私も勉強できる良い機会だと思い 来てくださるようお願いしました。

そうして、最初に羅列したようなものが 家のタンスに眠っていることがわかったのです。
「着物をこれだけ揃えようと思ったら大変ですよ」 と、その着物屋の方は言いました。
そうだと思います。 私もこの前、大蔵ざらえに出かけていって びっくりしました!!

大島紬など、何十万もする代物なのですね! 本当にびっくりしたのと同時に、大事にしなければ、と思いました。
今は着付けを練習中です。 お正月には、母の形見の振りそでを着たいと思います。

成人式にも大学の卒業式にも着物を着なかった私が 七五三以来、初めて着物を着ます。自分の意志で着るのは初めてです。 私は背が高く、肩幅もわりとあるので 和服は似合わない、と今まで思っていたので、 なかなか着物に手が出せずにいました。

でも、これからは、 お気に入りの薄紫の絹地に相良刺繍の訪問着は 何かお出かけする時に、さっと来て出かけられるような そんな、着物の似合う20代女性を目指します。
これからも、きもの人通信、楽しみにしていますので 女将さん、どうか頑張ってください。 私も頑張って着物が似合う女性になります。


   アイさん
↓このスカートは、なんと材料費100エンくらいです。キナリの綿の布で、1m100エンで売っていたので。

超がつくほどの面倒くさがり屋の私は、最初、普通のやり方で洋裁など できそうにありませんでした。
そこで、最初から型紙をとって洋服を作ることを諦め、 いきなり、チャコペンも何も使わず 定規とハサミだけで、ちょきちょき切りますした。

寸法などは、メジャーを腰に巻いたり胸に巻いたりして測り、 それに何cmかのゆるみを加えて布を切ります。
最初、完成したのは2時間後。 キャミソールとロングスカートのセットアップです。 こうして作る楽しみを覚えた私は いろいろな洋服を作るようになりました。

自分の発想や感性を大事にして 布を見てピンと来たら作る、素敵なデザインを見つけたら自分で作る。 こんな方法では、多分限界はあるでしょうが 私にとって、洋裁は自分を表現する手段になっています。