車椅子で綺麗に見える二部式きもの 特別擁護老人ホームに入っているチヨエさんは、今年72歳になりました。 このホームに入って10年になります。 子供の頃に小児麻痺をわずらい、車椅子の生活をしています。 歩くのは少し不自由ですが、口はとても達者だし、 頭もしっかりしています。 介護度が高いこのホームの中では、入居者仲間からも 職員さんからも頼りにされる存在です。 若い頃に、お琴やお花、お茶などお稽古事は、ほとんどこなしました。 最近、家の整理をしたので、昔作ったきものがたくさん出てきました。 その中に、クリーム地に墨色の花柄小紋が有りました。 20代のチヨエさんにお母さんが、「長く着られるように」と選んでくれた ものです。 白生地を選んで、そこに小紋柄を染めました。 母の思い出が詰まっています。 お正月には、ホームでチヨエさんがみんなの前でお琴をひきます。 きものは、自分で着られるので、着付けて帯を締めると 「お正月らしい」と口々に言われて好評です。 最近チヨエさんは、 「もっときものを着たいなあ〜」 と思うようになりました。 このホームでは、ボランティアさんが毎月お茶のおけいこを やってくれます。 きもの姿の先生方を見ていると自分ももっと着たくなりました。 その時に簡単に着られるように きものを「二部式にしたい」と思いました。 という訳で、女将がこのきもののをお預かりしました。 この小紋は着ていないんだけど、胴裏が黄ばんでいます。 胴裏を交換して、車椅子で使いやすい二部式きものに 仕立て替えることが課題です。 普通は身長とヒップを基準に寸法を出しますが、 立つことが少ないチヨエさんの身長をそのまま測ることも難しく 意味が少ないようです。 細いチヨエさんのヒップもサイズをそのまま使えません。 車椅子で過ごし易いように、大きめにすることが必要です。 丈も長めが良いようです。 仕立ての人も苦戦しました。 有ってないような寸法 車椅子で着るきもの 動き易い形や長さ 綺麗に見える格好 心地よい着心地 仕立て仲間に色々聞いてくれました。・・・と、後から分かりました。 その時に聞いてくれた中身が、「綺麗に見える丈」だったのが嬉しい。 暫く経って出来上がった二部式きもの たとう紙から開けてすぐに分かる仕立ての良さ しっかりと、かつふんわりと、整然と慎ましやかに仕上がった出来栄え こんな仕立てのプロを相手にする喜びを感じます。 衿はバチ衿 上着は、前下がりを大きくして、背中のもたつきを少なく 見栄えを良くしました。 下の部分は、ウエストにつける紐の用尺がきものからは取れません。 この紐は、一番たくさん触れる部分でもあり、 ぜひ絹を使いたい。 そこで、胴裏を使いました。 つやつやとすべりが良くて感触が心地よいです。 ウエスト部分は腰に巻きつけると、どうしてもシワになります。 そこで、手縫いのダーツを取りました。 ウエストの後には、紐を通せるように、少し大きめのループを取りました。 さあさあ・・・チヨエさん、何ておっしゃるかな? チヨエさんに二部式きものをお届けしたとき、 チヨエさんは、9月の文化祭に向けて沢山の作品を作っていました。 ちぎり絵、パッチワーク、お習字・・・器用なチヨエさんを 頼りにして「あれも作って、これも出して」とリクエストが多いようです。 そして、二部式きものを着たチヨエさんは、とっても嬉しそう。 「ああ、これで簡単に着れるわね・・」 「帯は付け帯で名古屋帯にして」 「ああ、こんな帯が大好きなの」 「帯揚げはこの色がいいね。」 「帯締めは、この朱色も好きよ。」 美しくきものを着た女性がここにいます。 きものを着る女性みんなが抱くわくわくした気持ち うれしいなあ〜 ハッピーだなあ〜 私が仕事のしがいが有る、とっても嬉しい瞬間です。 二部式きものは、ここで作った形を基本にしますが、お客様の体型と ご要望に応じて仕立てさせていただきます。
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