想い 「私にとってのきもの」

着物が宝物になった                京子さん 45歳

ついこの間まで、私にとって、着物は『重荷』でした。
2竿の箪笥にぎっしり入った着物と帯。 20年間、お手入れだけはしっかりしてきましたが、ほとんど手を通さないでいた のは、肩を痛めて、帯を結び終えた頃には疲れ果ててしまうからです。
母が一枚一枚心を込めて支度してくれた着物は大好きなのに。 大切な帯にはさみを入れて付け帯に作り変えることにはとても勇気が要りました。

私の背中をそっと押してくれたのは、美容師の友人でした。
彼女も着物が大好きな のですが、お客様の一人のおばあちゃんが亡くなって、残された着物が、ごみ袋で ごみに出されたと言う話しをしてくれたのです。

私にとってどんなに大切な着物であっても、他人にとってはごみでしかない現実。
それから、私は帯にはさみを入れました。自分で着物を着られるか、練習もしまし た。下着や小物を点検して一つずつ揃えていきました。

着物の再デビューは、オペラ鑑賞でした。 大島紬には塩瀬の帯を合わせてみました。1枚1枚絹をまとって行くにつれて、不 思議にも女らしい優しい幸福感が湧き上ってきました。 一緒に行った夫はなんだか照れくさそうでしたが、まんざらでもなかったみたいで 、何枚も写真を撮ってくれました。

このお正月はフィレンツェで迎えました。もちろん着物を持っていきました。でも 寒波で体調を崩して、そのまま持って帰ってしまい、残念。
綸子の美しい花柄の小紋を持っていきましたが、あの町の古い建物にはきっと紬が 似合いそうな気がしました。

帯にはさみを入れて着物を着る。私にとっては大変な決断だったけれど、着物を着 た写真を母に送ったら、とても喜んでくれた。今の私にはきものは『宝物』です。